映画館の暗闇の中で、圧倒的なスケール感に身を委ねる時間は贅沢だ。今回、私が選んだのはIMAXレーザーでの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。アンディ・ウィアーのベストセラー小説を、『ドライヴ』や『ラ・ラ・ランド』で知られるライアン・ゴズリング主演で実写化したSF大作である。
完璧な絶望から始まる物語
物語の幕開けは、凄惨といっていい。 主人公ライアン・ゴズリング演じる男が目覚めると、そこは地球から遠く離れた宇宙船の中。記憶は混濁し、自分の名前すら思い出せない。そして視界に入るのは、共に旅をしたはずのクルーたちの変わり果てた姿。自分だけが、なぜか生き残ってしまった。
この「初っ端からの大ピンチ」という設定が、観客を一気にスクリーンへと引きずり込む。IMAXの巨大なスクリーンと精密な音響が、宇宙船内の静寂と孤独、そして徐々に蘇る「地球の危機」という重圧を、肌に突き刺さるようなリアリティで伝えてくる。
「理系」のサバイバルと、予期せぬ相棒
本作の最大の魅力は、精神論ではなく「科学と論理」で問題を解決していくプロセスにある。 記憶を失い、絶望的な状況に置かれながらも、主人公は手近にある道具と物理法則を駆使して、現状を把握しようと試みる。このあたりは、同じ著者の前作『火星の人(オデッセイ)』を彷彿とさせる、知的でスリリングな展開だ。
そして、物語の中盤で出会うのが、謎の生命体「ロッキー」である。 この出会いが、単なる宇宙遭難記を「至高のバディムービー」へと昇華させる。全く異なる進化を遂げ、共通言語を持たない二人が、数学や音楽を媒介にしてコミュニケーションを確立していく過程。IMAXの音響システムは、ロッキーが発する独特な「声」の響きを余すことなく再現しており、言葉を超えた友情が芽生える瞬間の感動を増幅させていた。
ライアン・ゴズリングの真骨頂
近年のライアン・ゴズリングは、『バービー』や『フォールガイ』といったメジャー大作でのコミカルな役どころが目立っていた。それらも素晴らしい作品ではあるが、初期の『ドライヴ』で見せたような、内面に深い孤独と知性を湛えた彼の演技を求めていたファンも多いはずだ。
本作での彼は、まさにその「期待していたライアン・ゴズリング」だった。 恐怖に震えながらも好奇心を失わず、ユーモアを交えつつも論理的に難局を突破していく姿。極限状態における人間の強さと脆さを、彼は見事に体現している。この作品での彼のパフォーマンスを観ると、2027年に公開が予定されている『スター・ウォーズ』の新作への期待も、がぜん現実味を帯びてくる。
なぜ今、この映画を観るべきなのか
昨今のSF映画は、視覚効果の派手さに重きを置くものが多い。しかし、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は違う。もちろん、IMAXで観るべき宇宙の広大さや宇宙船のディテールは圧巻だが、その根底にあるのは「対話」と「自己犠牲」、そして「未知への信頼」という極めて普遍的で温かいテーマだ。
映画が終わった後、劇場の明かりがついた瞬間に感じる、地球という惑星の重力と空気のありがたみ。この余韻こそが、優れたSF映画の証と言えるだろう。
もしあなたが、知的好奇心を刺激され、心震えるような映画体験を求めているのなら。あるいは、かつてのライアン・ゴズリングが持っていたあの「静かな熱量」を求めているのなら。 迷わず、劇場へ足を運んでほしい。それも、可能な限り大きなスクリーンと、良質な音響を備えた場所へ。
この映画は、宇宙という巨大な虚無の中で、私たちが決して一人ではないことを、淡々と、しかし力強く教えてくれる。